「こういうのどう?」と吉田美香さんから目配せされたような気がして、ひさしぶりにこの記事を書いている。
どの観戦記にも余談は含まれるもので、なかには丁寧に「関係ない話題を…」と恐縮しつつ、紙幅のわずかな文量をそれに充てる執筆者もいらっしゃった。
今回のはそういう類のものではなくて、随分な文量が「育児」の話題で占められている。新種といっていい。
育児の話題は、こうはじまる。
2月に第1子が誕生した井山は、生活が一変したはず。夜泣きはまだらしく、日中もそう手がかからないのだそうだ。
井山四冠、はじめての子育てはわりと順調であるらしい。順調だというのだから、ここで育児の話を終えるのが自然だ。しかし、一家言を伝えたい吉田美香さんは筆をすすめる。
癇(かん)の強い子なら小児はりが大阪の常識だった。ロングセラーだけあって樋屋奇応丸の“金粒”もお勧め。乳児には1粒を母乳か湯ざまし数滴に溶かすのが裏技よ、と先輩風を吹かせたかったのに――(育児にも役立つ観戦記は史上初か)。
樋屋奇応丸、懐かしい!西日本地域では有名な夜泣きのお薬だ。まだテレビCMをやっているのかわからないけれども、「金粒〜♪ 樋屋〜♪ 奇応丸♫」と節をつけて歌える人は、アラフィフで間違いないだろう。
話が逸れた。
吉田美香さんの主張は「先輩風を吹かせたかったのに」に尽きる。
井山四冠から順調と告げられ、行き場を失った夜泣き対策。いいたい、いいたい。子育てあるあるをいいたい。漲る想いが募り募って、全体の3分の2にも及ぶ育児の話題を、日本経済新聞の紙面にぶちまけた。
わたしはそう察している。
ところで「育児にも役立つ観戦記は史上初か」の行である。吉田美香さんからのアイコンタクトを感じたのはここだ。(ネタにしなよ)と、紙面を通じてパスが回ってきた気がしたのだ。