イブラヒモってどんな紐?

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【第1話】探偵・東小路と「読書の秋」

今週のお題「読書の秋」

東 小路ひがし こうじは、通帳への記帳を済ませると十八百万銀行じゅうはちひゃくまんぎんこうのATMコーナーを後にした。

ここは東 小路の故郷、伊座早いざはや市。県の中央にあり、文字どおり「県央」と呼ばれる地域にあたる。東 小路は市役所近くにある栄螺町商店街さざえまちしょうてんがいに空きテナントを見つけて、探偵事務所を構えたばかりだ。

銀行から事務所に戻る道すがら、故郷に戻って初めての依頼『ジャスコ・イオン一括書換事件』の手強さを噛みしめた*1。しかし、もう数年もすれば感慨深い想い出に昇華されることだろう。

事務所は南北に伸びる商店街のちょうど中ほどにある。かつて1階は宅配ピザ屋で、2階はイタリア料理の店だった。いずれも空きテナントで、2階の店舗は事務所としても使えると紹介され、即日でここに決めた。窓辺から見下ろす商店街の景色が気に入ったのだ。

事務所のポストボックスには数枚のDMとハガキが投函されていた。階段を上りながら目を通すうち、ハガキの放つ異様さに気づいた。裏面には「読書の秋」と大きく印字されていて、表面にはクエスチョンマークがあるだけだ。差出人は不明で消印もない。

東 小路ははたと足を止めた。引越しと仕事に追われてここ数週間、読書から離れていたではないか。

DMとハガキを上着のポケットに押し込むと、ふたたび商店街へと踵を返した。事務所で寛ぐ前に本屋に向かい、数冊の週刊誌と1冊の文庫本をジャケ買いする。

事務所のドアを開けると、永昌えいしょうアレイが出迎えた。

「オカエリ ナサイマセ ゴシュジン サマ」

「あ、そういうのはいいから。これ読んどいて。」

「ちっ、了解っす。」

軽く舌打ちしたアレイとは、東 小路の叔父・永昌博士えいしょう ひろしが開発したアンドロイドである。

一見すると、テレビでよく見るハーフ顔をした男性アナウンサーにしか見えないが、頭のてっぺんに銀色に輝く細長いアンテナが装着されている。

アンテナ着けんば、ヒトと区別のつかんやろうが。

納品のとき永昌博士はそう告げた。アンドロイドであることを隠すつもりはないらしく、もしかするとアンテナはダミーなのかもしれない。

文庫本を手渡されたアレイは、どっかとソファに腰を下ろした。

アレイには特別な機能がある。書籍・事典などを一度読ませておけば、いつでもアウトプットすることができるのだ。

ただし、現バージョンには制約があって、インプット方法は朗読、アウトプット方法は口頭に限られている*2

アレイは長い足を組むと、表紙をめくり朗々と読み上げはじめた。【来週に続く】

*1:街なかに残されていた「ジャスコ」の文字すべてが、一夜にして「イオン」に書き換えられた事件。

*2:アレイの現バージョンは1.0.0。今後のアップデートが期待される。