イブラヒモってどんな紐?

紐でないことは知っています。小ネタ写真と書き物のブログです。【注】写真はすべて拾い画ではありません。無断転載は見つけ次第、追っ手を放つ。

【第4話の表】探偵・東小路と「秋の歌」

今週のお題「秋の歌」

栄螺町商店街さざえまちしょうてんがいを東に外れるとすぐに八裂町やさきまちに入る。しばらく歩くと交通量の多い県道55号線にぶつかり、道路をわたると丁字路ていじろ、その突き当りに猥楽寺わいらくじがある。

片手にタブロイド端末を携えた永昌 博士えいしょう ひろしは、道端にたたずんで寺の鐘楼しょうろうを見上げていた*1。そろそろかと腕時計を見やると、目論見もくろみどおり鐘が鳴りはじめた。

鐘楼は無人である。永昌 博士は住職の依頼で開発した自動鐘つき機…いや半自動鐘つき機のテストを実施している。

「ちょっと鐘ン音の、割れとるな。」

口の右端にくわえタバコをしたまま眉間に皺を寄せる。永昌 博士はタブロイド端末上のUIに表示されているGAINを左に回して、入力を弱めた。鐘は一定のリズムで鳴り続けている。

猥楽寺の住職は新顔である。跡継ぎに恵まれなかったため他所から招かれたのだが、やってきたのは、すっかり楽を覚えた若者だった。モノグサだと世間の評判は良くない。しかし、話をしてみるとわりにIoTアイ・オー・ティーに興味があることがわかった。

先代はナマグサやったもんなぁ。腹ン立つ。

先代と永昌 博士とは犬猿の仲であった。数年前の法要のとき、先代は読経後の説法をそっちのけにして、老朽化した寺への普請きふを募ったのだった。親戚一同が呆れかえるよりも速く永昌 博士は数珠を住職に投げつけた。続けざまに回し蹴りを繰り出そうとするところを、甥の東 小路ひがし こうじが住職にタックルを見舞ったことで、なんとか蹴りの直撃を免れた。

永昌 博士は鐘の音に空間系のエフェクトを追加した。金属的なPlateよりもHallのほうが良かろう。奥行きのある鐘の音が辺り一帯に鳴り響いた。

しかし、突如として様子がおかしくなる。鐘を打つ間隔が乱れた。

ゴッゴ…ゴーン ゴ

打数も増えている。これはもはや乱打といっていい。永昌 博士は少しも慌てる素振りをみせず、この状況を想定内のエラーとして静観した。

爆音で鳴り響く鐘の乱打。近所迷惑は重々承知の上だが、評判が落ちるのは猥楽寺であり、もともと住職の評判は地に落ちている。永昌 博士は悠々とこのエラーに対処するためのデータ収集を開始した。

ほどなくして鐘が止んだ。永昌 博士が腕時計を見ると、目論見より早く鳴り止んだことがわかった。遠くからだれかがこちらに向かって駆けてくる足音がした。探偵・東 小路と、助手の永昌 アレイである。それは博士の目論見どおりだった。

「なんだ。ひどい鐘の音がすると思って来てみたら、叔父さんの仕業か?!」

息を切らして東 小路が問う。

「おう、もう食べ終わったとや?」

永昌 博士はポケットから柿をひとつ取り出して、皮を器用に剥ぎとると、ひとくち噛った。

ゴーン ゴーン ゴーン

と重々しく空気を震わせて、鐘が1回鳴った。ほどよくリバーブが効いている。

鐘の余韻が引く頃合いを見計らって、もうひとくち噛った。

ゴーン ゴーン ゴーン

ひと噛りして5秒以内の刺激を無視するようにプログラムを修正すれば、鐘が連打されることはなさそうだ。

手応えをえた永昌 博士は、満足げな微笑みをたたえて正岡子規の有名な一句を詠んだ。

柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺

ゴーン ゴーン ゴーン

またしても程よいタイミングで、不意に鐘がひとつ鳴った。

「まぁ…俳句を『歌』とはいわないけどね。」

福田エーコは呟いた。

裏へ続く

 

▼第1話はこちら

www.afutsuka-kouji.work

 

*1:永昌博士が開発したタブロイドサイズのタブレット端末。