イブラヒモってどんな紐?

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【第3話】探偵・東小路と「赤いもの」

今週のお題「赤いもの」

探偵・東 小路ひがし こうじは、通帳への記帳を済ませると十八百万銀行じゅうはちひゃくまんぎんこうのATMコーナーを後にした。

今回の事件『MD酵素 無差別散布事件』のやるせなさには震えた*1。たんに収穫時期を早めただけで容疑者の意図を大いに外したのは、幸いであった。

「およばなかったのかな。想像力が…」

信号待ちをしながら、東 小路はおもわずつぶやいた。横断歩道のむこうには平日の栄螺町商店街さざえまちしょうてんがいアーケードが口を開けている。閑散としたものだ。

人気ひとけがなければ、人気にんきもない…か。」

「あら、お上手。」

東 小路はギョッとして振り返ると、福田ふくだエーコがそこにいた。

福田エーコは最近事務所に顔を出すようになった女性で、東 小路の卒業した高校の後輩にあたる。とはいえ、年齢は7つ離れているので直接の後輩ではない。会員制SNSミクシィマムの卒業生グループをきっかけに知り合った。

茶店火球かきゅうで初めて対面したときは面食らったものだ。日本髪を結っている。さらには異様なまでに背が高い。高下駄たかげたでも履いているのかと思いきやサンダルであった。

「なんというか…大迫力ですね。」

東 小路は第一印象を伝えようとして、精一杯選び抜いた言葉がこれだった。

「探偵さんこそ。」

福田エーコは恥じらいの表情を浮かべてそう返してきた。なぜ恥じらっているのかがよくわからないし、東 小路には≪迫力≫の要素がまったく無い。「そうでしょうか?」と反論もできずにただ狼狽うろたえた。

「わ…和装もなさるんでしょうか?」

うっかり核心を突く質問をした。福田エーコは日本髪・Tシャツ・レギンス姿でやってきている。なぜ和装ではないのか。

「いいえ、いいえ。そういうのではありませんから」

(いいえ、いいえ。そういうのではありませんから)

彼女の答えが東 小路の頭のなかに強く反響した。(じゃあ、どういうのだ…)喉が渇く。その後ホットコーヒーを3回もお代わりした。遠くのカウンターから苦笑いを浮かべたマスターの顔が覗いた。

あおに変わりましたよ。」

福田エーコが道の先を促した。東 小路は日本髪の女を連れ立って、事務所へと向かった。

郵便受けを覗くと、またしても怪しげなハガキが投函されていた。「赤いもの」と大きく印字されていて、表面にはクエスチョンマークが大きく書かれているだけだ。

「あ、探偵おかえりなさい。エーコさん、いらっしゃい。」

階段の上から永昌えいしょうアレイが声をかけてきた。しかし、ふだんのアレイとは様子が違っている。

「おい、お前…」

アレイの鼻の頭だけが赤色に変わっていた。東 小路は人差し指で頬を掻きながらこう指摘した。

「そういうのは、ズルいんじゃないかな。」【来週に続く】

 

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*1:夜な夜な各地の田畑に忍び込み、無断でMD酵素を散布。農作物を規格以上の大きさに育て上げ、納品率を著しく低下させることで農家の減益を狙った事件。