2018年3月31日、シソンヌのライブを観にNBCビデオホールへ。
17時開演で60分。コントは4本。タイトルは不明なので見た目の印象で演目を挙げていくと…
- 生まれて初めて本屋を訪れた人
- コミュ障と共に遭難
- 生まれて初めてカラオケボックスを訪れた人
- 新居を訪ねて来て息子に下ネタを仕込む友人
コント終了後には約10分のトークコーナーがあった。
そこでわかったのは、シソンヌのお二人が長崎を訪れたのは3度目で、そのうちの2回は大村ボートでの営業。いわゆる「市内」に足を踏み入れたのは今回が初めてということ。
「何か長崎らしいものは食べた?」とシソンヌ長谷川氏。長崎といえば海の幸と山の幸に恵まれた町。食の話題はやはり避けられまい。シソンヌじろう氏はこう答えた。
「食べたよ。カツちゃんぽん」
会場全体が水を打ったような静寂に包まれ、クエスチョンマークが満ち満ちた後に、ややざわついた。
客席の反応をみるや、「ええっ?メジャーなちゃんぽんじゃないの?」とシソンヌじろう氏。
開演の前、シソンヌじろう氏のInstagramに「カツちゃんぽん」が投稿されていたのだが、地元の人間からついたコメントは「そんなの知らないですけど」に近しいものだった。
おそらく客席の長崎人も、ほとんどが食べたことがなかったのだろう。それゆえに、シソンヌじろう氏の行動をどう評価すべきか、誰にもわからなかったのだ。
「カツちゃんぽん」は長崎駅前の「うまかもん亭」にある。
ちゃんぽん屋のひしめく長崎市内で、カツを乗せるスタイルはおそらくこの店しかない。
いわばオンリーワンの店を、シソンヌじろう氏は引き当てたことになる。
さらには、ほとんどの長崎人が素通りしてしまう(あるいは発見さえしていない)カツちゃんぽんを食すことで、シソンヌじろう氏は一息に長崎人を飛び越える経験を得たのだ。
素晴らしい。
かたや、シソンヌ長谷川氏は、マドゥバニの定食を食べたという。何たる選球眼。心の中で「よくぞ!」という称賛を送った。
おそらく彼は、会場周辺の飲食店情報を入念にリサーチしたのだろう。そうでないと、この店にフラッと立ち寄ることは不可能だ。なぜなら隠蔽感が凄いから。
外観を一目見て、ここが「カレー屋」だとわかる人はまずいないだろう。
店が開いている時間帯には大行列ができるものの、営業していない時間に通りかかるとそこはぱっと見、謎の店でしかない。
謎なのはお店の外観ばかりではない。マドゥバニで提供されるカレーも、それを作る店主もまた正体不明だ。
シソンヌじろう氏は「どんなカレーだったの?インド風?シャバシャバしてるの?」と矢継ぎ早に尋ねた。しかし、シソンヌ長谷川氏は終始小首を傾げて答えに窮していた。
シソンヌ長谷川氏の反応は、大正解。
なぜなら、マドゥバニのカレーは店主の編み出した完全オリジナルカレーだからだ。それゆえに何系にも属さず、ただ「マドゥバニのカレー」としか形容できない。
何もかもが謎に包まれたカレー屋マドゥバニを、シソンヌ長谷川氏は大絶賛していた。
謎のカレーを食した後は、大黒町のバッティングセンター界隈を散策したらしい。
道を一本入ったところにある建物の廃れ具合。そしてパーキングで誘導をする係員と脇に佇むネコとの組み合わせも、長崎らしい風景だと語っていた。
そうしてシソンヌのお二人の口から、
「長崎でとっても行ってみたい場所がある」
と地元人の興味をくすぐる話題が飛び出した。
どこやろうか?
中華街?
稲佐山展望台?
軍艦島?
シソンヌの答えはどれも違った。まったく予想外だった。それは、
「蛍茶屋」
会場内は失笑に包まれた。大失笑だった。路面電車の行き先に「蛍茶屋」と書いてあったのが気になったらしい。
どんなに風流な場所なのだろうと…。
ホタルが舞っていて、腰の曲がったおばあちゃんの営む小さな茶屋があるのではないかと…。
現実的にはゲオがありロイヤルホストがあり、路面電車の車庫がある。渋滞の名所、矢の平交差点がある。それだけの場所である。
ノスタルジックな地名にして、ロマンがない場所。まったく罪つくりな蛍茶屋だ。
長崎で罪つくりな地名といえば、もう一つある。
それは「女の都団地」。
彼らの目の前を「女の都団地」と掲げたバスが通りかかっていたら、最後は異様な興奮に満ちたトークになっていたかもしれない。
シソンヌ、またぜひ長崎へお越しください。