コンビニの前でときおりお目にかかる光景、すなわち「すびおむ現象」を捉えた写真をまとめておきたい。
「すびおむ現象」は何か?というと、わたしが勝手に名付けて心の中でそう呼んでいる現象なので、何の辞書にも載っていない。この際に定義しておこう。
【すびおむ現象】店舗等でキャッチフレーズの1文を貼り出す際、1文を構成する文字列を数枚にわたり分割してプリントアウトし、全体またはその一部にそれらの用紙を適切な順序で貼り出していない現象。
具体例を示そう。第一例である。
このとおり「おむ」「すび」が適切な順序に並んでいない。
しかし人とは不思議なもので、われわれの脳は勝手に「おむすび」と補正して理解する。
この脳の働きのせいか、作業者であるコンビニ店員は「すび」「おむ」と貼ってしまったことに自分自身では気づかず、ついに修正できないまま世に出てしまったという事例である。
こうなると気づけるのは当事者ではない。一般客だ。前を通りかかった際、視野に入るか入らないかギリギリのところで、《何かが変だ》という違和感を察知する。これもまた脳が直感するのだ。
「すび」「おむ」を発見したわたしは、他の用もないのにコンビニに入店した。つかつかと足早にレジに近づき、用件を店員に伝える。
「あのぅ。表に貼ってある『おむ』と『すび』が逆です。」
「はい?」
「表に貼ってある、『おむ』と、『すび』が、逆です。」
「?」
「えーっと。表に貼ってある、『おむ』と、『すび』が、逆なんです。」
「?」
これ以上に適切な説明はないと思うのだが、3〜4回のやりとりの末、店員はようやく「おむ」と「すび」を正しい位置に入れ替えてくれた。やれやれである*1。
さて、二例目をあげてみよう。
大崩壊。よくぞこのまま貼り続けているものだと賞賛を送った。
ためらいがなく貫徹している。このように貼ったロジックが謎であるばかりか、むしろ「どうだ?」と言わんばかりの自信さえ感じる。
20分に及ぶスタンディングオベーションを心の中で浴びせたわたしは、店員に誤りを指摘するのはもはや野暮と断じ、パチリと写真に収めると大変満足してその場を去った*2。
最後にこの例をあげて締めくくりとしたい。
明治時代である。「法憲国帝本日大」。右から左へ文字をたどれば完結した1文となっている点、二例目とは完全に性質が異なっている。
余談になるが、昭和初期まで見られた右から左へ文字を並べるルーツを調べたところ、この方式は「横書き」ではなくて、実は「縦書き」であるらしい。
扁額や石碑の題字などは一見すると右横書きのように見えるが、前近代にあっては、これらは「1行1文字の縦書き」、つまり縦書きの規範で書かれたものであって右横書きではないのが通常である。
ということは、あえての縦書きである可能性が否めない。奥ゆかしい「すびおむ現象」の事例である。
以上、「すびおむ現象」についての三例。終わり。