その夜、数年前に借りた本のタイトルが思い出せなくて困っていた。『ナントカに吹く風』だ。
海外の短編ミステリー小説で、軍人の綽名のようなタイトルだったことだけはハッキリと覚えているのだが、肝心な部分がモヤで覆われている。
登場人物は兵士で、主人公の名前は・・・まったく覚えていない。
そこで軍人の異名っぽさだけを手がかりに、架空の場面を思い描いてみることにした。主役級の人物みずからが、セリフを喋るうちにタイトルコールしてくれるかもしれない。
その男がわたしに向かって歩み寄ると、擦り切れた革の手袋をしたまま右手を差し出した。「俺はジョン。仲間からは『ナントカに吹く風』…って呼ばれている。よろしくな。」
脳内劇場に登場したジョン(仮)は、肝心の「ナントカ」のところを「ナントカ」のまま言い放つ始末。
それ以上の展開はなかった。ジョン(仮)に右手を差し出させたまま、妄想の幕を引いた。この方法はヤメよう。
部屋は消灯し、枕元の読書灯とiPhoneの画面だけが明るい。もう寝るだけの体勢を整えておきながら、頭の中は悶々としている。
正解が欲しい。明日、図書館に出かけてリファレンスに相談することもできるのだが、気分としては「今すぐAmazonでポチりたいよう」というほどに高まっていた。
ふと名案が浮かんだ。曖昧なままGoogleで検索してみてはどうか?
微妙にズレていても「もしかして、●●?」と正しいキーワードを提案してくれるじゃないか。
そうだ、そうしよう。でももう1つだけ、より核心に迫るようなキーワードがあるといい。
布団の中で身体をぐにゃぐにゃ動かしているうちに、記憶の奥底から「アディスタ」という言葉が浮かび上がってきた。
アディスタ 風 小説
もうコレで決まりよーと検索してみたら、まったく期待していない答えが返ってきた。
こんなときに「もしかして、●●?」が発動しないだなんて!
方針を変えた。もしどこかの誰かがブログに書評を書いているとしたら…を想定して、次のような検索ワードを捻り出した。
兵士 ミステリー 小説 スタ 風
タイトルの語感としては「ナニスタ」で合っていそうな気がしたので、「スタ」を検索ワードに入れた。それと「風」は確実に入っているキーワードだ。
そうするとこのような検索結果が出てきた。
山田風太郎の「風」にヒットした。狭い、狭すぎる。
もうGoogleに頼るのさえヤメようとしたそのとき、表紙の写真を撮っていたのを思い出した。
Googleフォトに保存してあるかもしれない。